体外受精の失敗を乗り越える心と、次への一歩
更新日時:2025.12.08
つまり半数強のカップルは、期待をもって臨んだ初めての体外受精で、失望や挫折感を味わうことになります。
もちろん残念な結果ではありますが、そこで諦めてしまっては妊娠の可能性は遠のくばかり。
次回以降のチャレンジで成功するためにも、正しい知識と前向きな心構えを持つことが大切です。
体外受精が失敗してしまう主な要因
体外受精は、タイミング法や人工授精などの一般不妊治療を受けても妊娠しない場合に選択される生殖補助医療(ART)です。
経腟超音波下で卵子を卵巣から採卵し、男性から採取した精子と受精させ、できた受精卵を培養して子宮に移植するという高度な医療技術が用いられますが、その過程のどこかで何らかの問題が生じると、妊娠は成立しません。
受精がうまくいかなかった
精子が卵子の中に入り、それぞれの細胞の前核がひとつに融合するのが「受精」です。体外受精では、培養液に入っている卵子に、精液を特別な方法で調整して回収した運動性の良好な精子をふりかけます(媒精)。
卵子と精子をセッティングした後は、精子が自身の力で卵子の透明帯を突破して、中に入っていかなくてはなりません。精子にその力がなかったり、卵子の透明帯が厚すぎる場合は、受精できません。
さらに、精子が卵子の中に入ると、精子の頭部から卵子を活性化させる物質が放出されます。
精子がその物質を放出できない、あるいは卵子の側に問題があって活性化がうまくいかない場合も受精は起こりません。
受精卵はできても、胚移植ができなかった
たとえば、受精は成立しても全く分割しないこともあれば、初期胚移植(3日目)を予定していても4分割まで進まず胚移植がキャンセルとなるケースがあります。また、胚盤胞移植を目指して培養を継続しても、良好な胚盤胞にならなかったため胚移植がキャンセルとなるケースもあります。このような受精卵の「分割障害」の原因は、はっきりとは分かってはいませんが、多くの場合は卵子や精子のどちらかの質が悪くて、成長できなかったことが要因と考えられます。
現在は凍結の技術が進歩したため、採卵した周期に移植を行わず、いったん胚を凍結し、次周期以降に子宮内膜を着床しやすい環境に整えたうえで移植する「凍結融解胚移植」という方法が主流です。
この際に用いられる「急速ガラス化法」では、融解後の胚の生存率は95%以上ですが、まれに凍結融解のストレスに耐えられずに胚が変性したり、破損してしまい、胚移植がキャンセルになるケースもあります。
胚移植をしたが、着床しなかった
胚移植は、専用のやわらかいカテーテルに培養液ごと胚を吸引し、超音波下で子宮に挿入して胚を子宮内膜の上に置きます。胚はその後子宮内膜に接着し、内部にもぐりこむことで「着床」が始まります。着床とは、胚が母体とつながり、母体の血液から酸素や栄養分をもらって、胎児へと成長していくプロセスです。
しかし、形態が良好でグレードの高い胚を移植しても着床しない「着床障害」が起こることがあります。その原因には、胚自体に染色体異常がある場合や、 子宮内の環境が着床にふさわしくないケースなどが考えられます。ただし、着床のメカニズムは非常に複雑で、未だに解明されていないことも多いのが現状です。
医療の進歩により、受精や培養の段階では、かなり多くのことが可能となってきました。
しかし着床については、現在も不妊治療の大きな課題となっています。
体外受精失敗後の心理的影響とケア
「何がいけなかったのだろう」「あのとき、こうしていたらよかったのかも」と、あれこれ考え込んだり、悔んだりするのは自然な反応です。
ただ、その気持ちにとらわれ続けてしまうと、それが次へのチャレンジを妨げることにもなりかねません。
失敗に直面したときの感情への対処
妊娠判定が陰性であることをお伝えすると、気が動転して涙が止まらなくなってしまう方もいます。そのような時には、すぐに診察室から出なくていいとお話をしています。
まずは結果を受け止めることですが、落ち込みから回復するにはやはり時間が必要です。
前向きに受けとめる
当院では、妊娠判定が陰性であったことを伝えた後には、必ず今回の治療の復習をします。卵巣刺激法でどのように卵胞が成長したか、ホルモン値の推移や胚移植時の子宮内膜の厚さ、胚移植に使用した胚のグレードなどを説明し、そのうえで、次回に向けて考えられる修正点があれば、それも説明します。
もし今回の治療で疑問に思ったことや納得いかないことがあれば、遠慮せずに医師に尋ねましょう。
パートナーとの協力体制
不妊治療は、決して女性だけが取り組むものではありません。ご夫婦2人が同じ目標に向かって情報を共有していくことが重要です。
実際に、治療に対して「2人で一緒に取り組んでいる」という意識の強いカップルほど、妊娠判定の結果も2人そろって聞きに来られる傾向があります。
当院では、妊娠判定日にどうしてもご主人の都合がつかない場合は、希望があれば後日でも再度説明を行うようにしています。
専門家によるサポートとカウンセリング
女性は胚移植後の過ごし方に何か問題があったのでは、などと自分を責めてしまいがちです。しかし通常の日常生活が着床に影響することはまずないことを知っておきましょう。
どうしても前向きになれない時は、ひとりで思い悩むのではなく、クリニックのスタッフに相談しましょう。
多くの不妊専門施設では、不妊カウンセラーや、その資格を持つ看護師がいます。
必要があれば臨床心理士のカウンセリングを受けていただくこともあります。
再挑戦に向けた生活習慣の見直し
卵子も精子も、ご夫婦の体の中にある栄養を使用してつくられます。
受精や着床ができる良質な卵子や精子を得るためには、良い体づくりが必須です。
まずは、食事や睡眠、運動など基本的な生活習慣を見直して、健康的な毎日を送りましょう。
これは女性だけに限らず、男性も同様です。
バランスよく必要な栄養を摂取
食生活は妊娠力と大いに関係があります。偏食をせず、いろいろな食材を取り入れながら、できるだけ1日3食を規則正しく食べることが大切です。
当院では、患者さんの食事内容や体質、環境などを把握するために、ホームページ上にあるWEB栄養解析問診表を記入していただき、採血による約70項目の血液データと合わせて栄養解析を行っています。
その結果、不足している栄養素があれば、個別にサプリメントで補充します。
当院で使用しているサプリメントは、医薬品と同じレベルの品質管理による過程で製造されている国産の医療機関専用品です。
軽度の運動を心がける
ウォーキングやヨガなど、自分の体力に合った適度な運動は、血流をアップさせ、代謝もよくなります。休日にご夫婦2人で散歩するなど、2人で楽しみながら取り組むことで、心身のリフレッシュにも繋がります。
ただし、過度な運動は活性酸素を増やして体の老化につながると言われているので、注意が必要です。
良質な睡眠をとる
日本人の睡眠時間は先進国の中で最も少ないというデータがあります。睡眠中には成長ホルモンや生殖にかかわるホルモンが分泌されるため、睡眠不足は妊活の大敵です。
特に、就寝前のスマホやPC操作は、ブルーライトの影響で睡眠の質を低下させるので控えましょう。
夫婦で必ず禁煙を
喫煙は健康に百害あって一利なしです。女性では卵巣機能を低下させ、男性では精子をつくる機能を阻害します。
赤ちゃんを望んで治療を受けるなら、ご夫婦で禁煙を徹底してください。
なお、アルコールは喫煙ほど不妊に大きな影響はないとされていますが、適量を超えないようにできるだけ控えめにしましょう。。
失敗に至った要因をとり除く医療のサポート
初回の体外受精がうまくいかなかった要因をできるだけ明らかにし、そのうえで次の治療をどのように進めるか、治療計画を練り直します。
より受精・着床しやすい良質な卵子を育てる
女性の場合は、良質な卵子を得るためには、ご自身の卵巣機能に応じた卵巣刺激法を選択することが非常に重要です。
実際に、顕微授精で受精率が0%であった症例の受精率が約90%になることもあるくらい、卵巣刺激法の変更がよい形に出る例は多くあります。
そのため、体外受精を受ける時には、いろいろな卵巣刺激法の選択肢を持っている施設で治療を行うほうがよいと言えるでしょう。
なお、低刺激または中刺激から高刺激に変更した時には、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になる可能性があるので、おなかの張りや痛み、体重の急激な増加、吐き気や嘔吐などの症状が出た場合には、すぐに医師へご相談ください。
受精する力のある精子を集める
体外受精の採精前は、3日の禁欲をお願いしています。それ以上長く射精しないで精液がたまっていると、精子の頭の中のDNAの質や運動率が低下します。
コロナ禍の時期には、院内採精をストップした施設もありましたが、現在では多くの施設で院内採精を再開しています。当院でのデータでは、8割が院内採精です。
ただし、都合がつかない場合の自宅採精でも、運搬方法等に気をつければ精子への影響はさほど気にしなくても大丈夫です。
当院では、調整中の精子や精液調整後の精子を酸化ストレスから守るために、抗酸化剤入りの次世代培養液を使用して精子処理を行っています。
培養環境の改善
従来、胚の分割状態を確認するためには、胚を培養器から取り出して顕微鏡下で観察する必要がありました。
現在は、内蔵したカメラで胚を撮影し、動画のように見ることができる「タイムラプス」というシステムを備えた培養器が開発され、胚を取り出さずに観察できます。
当院ではすべての培養をこのタイムラプス培養器で行っています。
培養環境が一定に保たれているため、胚がダメージを受けることはなく、良好な胚を得られる確率が増加することに加え、24時間連続して胚の分割具合をチェックできるので、得られる情報量が圧倒的に多くなります。
そのため順調に分割している胚を選んで移植することが可能になっています。
また、より妊娠率の高い胚盤胞まで培養する際に使用する培養液は、8細胞期胚を境に、胚が必要とする栄養素が異なることが知られています。
ある程度の濃度で必要な栄養素を含む1種類の培養液を交換せずに使用する方法(シングルステップメディウム)と、前期と後期で組成の異なる培養液に変更する方法(シーケンシャルメディウム)がありますが、当院では、それぞれの成績を比較して、現時点ではより良好な結果が出ているシーケンシャルメディウムを採用しています。
子宮内環境を調べ、整える
着床を妨げる要因は、母体側にもあると考えられています。近年、遺伝子解析の技術が進み、胚を受け入れる子宮内の環境を調べる各種検査が登場しています。
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子宮内膜の着床時期がずれている
子宮内膜には胚を受け入れるのに適した時期があり、その時期を「着床の窓」といいます。
胚移植がこの時期とずれてしまうと、うまく着床ができません。
ERA(エラ)検査では、着床に関わる遺伝子を解析することで、その方にとって最適な胚移植の時期を特定します。 -
子宮内の乳酸桿菌不足
これまで無菌と考えられていた子宮内にも、実際にはさまざまな細菌が存在しており、細菌叢(フローラ)を形成しています。
この中でも乳酸桿菌(ラクトバチルス)の割合が90%以下に減少すると、不妊治療の成績が低下するとの研究があり、子宮内にある細菌の割合を調べるのがEMMA(エマ)検査です。
ラクトバチルスが少ない場合は、腟座薬を使って補充します。 -
慢性子宮内膜炎
慢性子宮内膜炎とは、細菌感染によって子宮内膜に慢性的な炎症が起きている状態です。この炎症があると、子宮内膜がつくられるたびに炎症をくりかえします。
基本的に無症状のことが多いのですが、最近着床障害の要因として注目されています。
ALICE(アリス)検査では、この炎症の原因となる菌がいるかどうかを調べます。
原因菌が見つかった場合は、抗菌剤による治療を行います。
ただし、これらの検査は通常の胚移植のタイミングで行う必要があるため、その周期での胚移植はできません。
木場公園クリニックの取り組み
体外受精の成功率を高めるには、実施前に十分な検査を行い、卵巣機能を適切に評価した上でふさわしい卵巣刺激法を選ぶことが重要です。その上で、安全に配慮しながら採卵・受精・培養を行い、良好な胚を育てて移植すること、さらに、移植方法と患者さんのホルモン状態に合わせて適切な黄体補充を行うことが重要なポイントです。
保険診療開始後の当院の卵巣刺激法ですが、卵巣の機能が保たれている方は、卵巣過剰刺激症候群のリスクを考慮し、原則的にはレトロゾールを使用した中刺激法を第一選択にしています。
高刺激法を選択する場合は、リコンビナントFSHクロミッド法を行い、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法はほとんど行っていません。
初回治療でレトロゾールの中刺激法を選択した場合は、まずは分割期胚による新鮮胚移植を行い、余剰胚が得られた際は長期培養をして、良好な胚盤胞になれば凍結保存します。
3日目時点で良好胚が3個以上得られ、かつ患者さんが希望されれば、新鮮胚盤胞移植も行っています。
なお、保険診療では移植回数の上限が定められているので、胚移植が反復して不成功であれば、先進医療も含めて、実施できる検査を行った上で治療を行います。
次の体外受精までの間隔
レトロゾールの中刺激法で新鮮胚移植を行い、凍結胚が残っておらず、卵巣の腫れもない場合には、次の周期に連続して採卵することがあります。一方で、卵巣が腫れている場合や、高刺激法を用いた場合には、1周期あけてから次の採卵を行います。
凍結胚の移植については、前回の妊娠判定が完全に陰性であれば、基本的に周期をあける必要はありません。
ただし、患者さんが治療に疲れていると感じている場合には、無理をせず少し時間をおくこともあります。
体外受精以外の選択肢について
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顕微授精への切りかえ
自然の受精を待つ体外受精と違い、顕微授精は一個の精子を卵子の中に確実に送り込むので、受精率は高まります。
初回の体外受精で受精卵がひとつもできなかった場合は、即顕微授精に変更します。
また、体外受精で受精率が低い場合も、次回は体外受精と顕微授精を半々にする方法をとることがあります。 -
胚の染色体異常を調べるPGT-A
染色体異常のある胚は、多くの場合自然に淘汰され、着床できなかったり、たとえ着床しても流産してしまいます。
胚染色体の数を調べ、過不足のない正常な胚を選んで移植するのがPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)です。
特に、高齢で2回以上胚移植を行っても結果が出ない場合や、2回以上の流産歴がある方には、妊娠率の向上や流産率の低下が期待でき、有効と考えています。
なお、現在は保険適用外のため、検査する胚盤胞を得るための採卵から胚培養、正常胚の移植費用まですべて自費負担となります。
転院を考えるタイミングは
他院で体外受精や顕微授精を受けてもなかなかうまくいかず、当院へ転院される患者さんは、全体の約3割程度いらっしゃいます。「いつ転院すべきか」は一概には言えませんが、何度トライしても良好な胚が得られない場合、そのクリニックでの卵巣刺激法や培養法がご本人に合っていない可能性があります。このような場合には転院のタイミングかもしれません。
また、医師とのコミュニケーションがうまくとれないと感じる場合も、転院を考えるきっかけのひとつです。
当院では、転院される方を受け入れるにあたり、必ず前医での治療の内容をしっかりと確認した上で、次の治療の戦略をたてています。
もしお困りごとがありましたら当院までご相談ください。
スタッフ一同、次の一歩に向けて全力でサポートをさせていただきます。
受付・診療時間
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午前
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午後
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