着床前胚染色体異数性検査（PGT-A）について

生命を構成するすべての細胞は、その設計図である染色体（DNA）を有しています。
人の染色体は男性も女性も46本あります（下図参照）。
男性の精子には23本の染色体セット（1番～22番染色体＋と性染色体（YまたはX染色体））が含まれ、女性の卵子も同数の染色体セット（1番～22番染色体+X染色体の23本）を有しています。
精子と卵子の受精により、男性と女性両方の染色体セットを有する受精卵（胚）ができ、受精卵の染色体数は46本となります。
受精卵は正確に分裂を繰り返すことで、46本の染色体を全ての細胞に分配し、次世代へ受け継ぎます。

最近、受精卵（胚）の染色体の数の異常（異数性）が、妊娠の不成立や流産を繰り返すことの原因であることが分かってきました。特に30代前半の女性における胚の異数性率は30％程度ですが、30代後半からその率は上昇し、40歳では約60％、44歳では実に90％の胚が異数性を示すことが報告されています。

染色体の数は胚の形を見ても判らないので、異数性であることを知らないまま子宮に戻し、着床・妊娠の不成功や流産を繰り返すことで、精神的・身体的な苦痛を経験する方がいます。

PGT-Aでは、最新の解析技術を用いて胚の染色体数を調べ、染色体に異常がない胚を選んで子宮に戻すことで、流産を減らし、妊娠率や出産率を高める可能性があります。

• 体外受精・胚移植実施中で、反復して体外受精・胚移植が不成功されている方
• 過去の妊娠で2回以上の流死産を経験されている方

• 体外受精（または顕微授精）にて受精卵（胚）を得ます。
• 受精確認後、胚盤胞まで培養します。
• 受精から5-6日目、胚盤胞の栄養外胚葉（将来胎盤になる部分）の細胞を5-7個分離・採取します（生検）。
• 生検後の胚盤胞は一旦凍結保存します。
• 胚盤胞から採取した細胞（生検細胞）を当院内の解析部門にて解析します。解析部門では、生検細胞からDNAを抽出し、適切な方法で染色体の数的異常の有無を調べます。
• 生検細胞の染色体解析結果や染色体の状態を臨床遺伝専門医より説明します。
• 検査した胚の移植の可否や移植の優先順位を説明し、必要があれば臨床遺伝専門医によるカウンセリングを受けることができます。
• 検査胚が移植可能と判断された場合、胚盤胞を融解して子宮内に移植します。

当院におけるPGT-Aの特徴

2020年4月より、日本産婦人科学会による「反復体外受精・胚移植（ART）不成功例、習慣流産例（反復流産を含む）、染色体構造異常例を対象とした着床前胚染色体異数性検査（PGT-A）の有用性に関する他施設共同研究」への研究分担施設ならびに解析施設として承認を受け、臨床研究に参加してきました。この研究への参加を通し、PGT-Aに関する知識や技術を習得・確立してきました。

当院では、PGT-Aに関する解析分門を独自に設け、PGT-Aにかかる全ての操作および解析を院内で実施しております。検査・解析を外部に委託することがないため、検体輸送時や解析時の紛失・取り違えといった問題が起こる可能性が低く、確実な結果が出せる体制を整えています。

臨床遺伝専門医が常勤しており、PGT-Aの解析結果や胚移植の可能性について専門性高く解説できます。また、ご希望があればPGT-Aに関するカウンセリングを受けることができます。

当院は日本産婦人科学会が定める生殖補助医療実施登録施設として承認を得ております。

治療費と自費診療について

2022年4月より体外受精は健康保険適応となりましたが、PGT-Aは保険適応されておりません。保険適応がありませんので、PGT-Aを実施する周期に行うすべての不妊治療（卵巣刺激や採卵、体外受精、胚移植など）にかかる費用は自費負担となります。また、胚の染色体解析にかかる費用も当院が定める費用を自費負担していただきます。現状、保険診療としての不妊治療と保険適応外のPGT-Aを同じ周期内で実施することはできません。

混合診療禁止の原則
保険診療と保険外（自費）診療を一連の治療の中で同時に行うことを混合診療といい、健康保険法で禁じられています。生殖補助医療による不妊治療では、保険診療で体外受精を行い凍結胚が得られた場合、胚移植を行うまでは自費診療を受けることができません。

PGT-Aに関するご質問やお問い合わせ等は外来（担当医師）またはお問い合わせメールにてご相談ください。