胚盤胞移植とは?妊娠の確率を上げる
体外受精の基礎知識と流れ
胚盤胞移植の利点としては、
- 確実に胚盤胞まで成長した胚を胚移植できる
- 胚盤胞は生理的にも子宮腔内にある
- 採卵後5日目になると子宮の収縮が少なくなる(子宮の収縮が多いと着床率が低下する)
- 頸管粘液が少なくなる(頸管粘液を上手に除去して胚移植をすると妊娠率が上昇する)があります。
胚盤胞に関する基礎知識
胚盤胞(blastocyst)とは、第5日(採卵後5日後)から着床前の胚のことです。
胚盤胞とは
胚盤胞は、内細胞塊(inner cell mass)、栄養膜(trophoblast)と胞胚腔(blastocyst cavity)からできていて、
70-100個の細胞からできています。
内細胞塊は、身体のあらゆる細胞に分化します。
一方、栄養膜は胎盤や羊膜などの胚外組織に分化します。
体外受精や顕微授精の翌日(1日目)には受精の確認ができます。雄性前核と雌性前核の2個の前核が観察できると正常受精と判断します。
受精卵は分割を繰り返して成長して行きます。
2日目では4分割、3日目には8分割となります。
2日目または3日目の胚のことを分割期胚(初期胚)と呼び、自然妊娠では分割期胚は卵管にあります。
4日目には桑実胚(自然妊娠ではこの時期に胚は卵管から子宮腔内に入ります)、5日目には胚盤胞になります。
どの時期まで胚を培養するのか、採卵した周期に胚移植を実施するか一度胚を凍結して
別周期に子宮内膜を作成して融解胚移植を実施するか?
2017年の日本産科婦人科学会のデータを見ると、体外受精または顕微授精などのARTで分娩した出生児の15.1%は新鮮胚移植児、
84.9%は凍結融解胚移植児です。
日本は凍結大国と言えます。
勿論、凍結(37℃→-196℃)と融解(-196℃→37℃)の過程は胚にはストレスを与えることになります。
では、なぜ新鮮胚移植と比較して凍結融解胚移植の方が、成績が良くなるのでしょうか?
理由としては、以下の三つが考えらます。- 高刺激を実施した時は、エストラジオール(卵胞ホルモン)の値が、自然排卵と比べて高く、黄体ホルモン(プロゲステロン)の上りが早いため、子宮内膜の成熟が早くなるために着床率が低下する。
- クロミッドを使用した卵巣刺激では、クロミッドの副作用で子宮内膜が薄くなっている場合もある。
- 採卵を直前に実施していないために、胚移植時の子宮の収縮が少ない、頸管粘液の量が少ないため、着床率が高くなる。
ではどのような場合に胚盤胞を目指して、長期培養をしたらいいのでしょうか?
すべての受精卵が胚盤胞になるわけではないので、当院では3日目の良好胚が3個以上あるときは、患者さまと相談して原則的に長期培養をして胚盤胞を目指します。胚盤胞でトライするときのプラス面とマイナス面をよく理解して、長期培養を選択してください。
当院での3日目良好胚の条件は、
- 割球数が6個以上
- フラグメント率5%以下
- 割球の大きさがほぼ等しい
- 割球の中に多核がないです
1回目の採卵周期で3日目に良好胚が多数できたため、長期培養をしたところ、良好な胚盤胞が1個もなく、新鮮胚移植も胚凍結もできなかった。この方の胚は体外での長期培養には適していないと考えて、採卵2周期目は3日目の良好な分割期胚を1個採卵周期に胚移植して妊娠、残りの3日目胚も長期培養しないで分割期胚で凍結した。
胚移植(初期胚移植)とは
正常受精胚が2個以上あるときは、形態が良好な胚を選択して胚移植を実施します。
多胎妊娠を防ぐために、移植に使用する胚の個数は原則的には1個です。
診察室で患者さんに胚の写真を見せて、胚の説明をした後に、どの胚を胚移植に使用するかを決定します。
手術室で患者さまに、胚移植に使用する胚をモニターに映して確認していただいた後、培養士が胚移植用のカテーテルに胚を吸います。
胚移植用のカテーテルが培養士から医師に渡されて、医師は慎重に子宮を収縮させないようにそっと、カテーテルを子宮腔内に進めて、胚を子宮に戻し、妊娠へと導きます。
胚盤胞移植とは
胚盤胞移植には採卵周期に胚移植を行う新鮮胚盤胞移植と一度胚を凍結・融解して胚移植を行う凍結融解胚盤胞移植があります。
新鮮胚盤胞移植の場合は採卵後5日目または6日目に胚移植を実施します。
胚盤胞は、胎盤と胎児になる部分が確認できる状態になっているより成長した胚です。
すべての分割期胚が胚盤胞になる訳ではないので、確実に胚盤胞まで成長した胚を選択して胚移植できる点で妊娠率が高くなります。
胚盤胞移植の流れ
胚盤胞を柔らかいカテーテルに吸って、子宮を収縮させないように丁寧に胚盤胞を子宮に戻します。
STEP1:胚盤胞をカテーテルに吸う
患者さまと一緒にタイムラプス動画を見て、どの胚を胚移植に使用するかを説明した後、移植に使用する形態の良い胚盤胞を選定します。培養士が柔らかいカテーテルを使用して胚盤胞をカテーテルに吸います。
STEP2:胚盤胞を子宮へ戻す
経腹エコーまたは経膣エコー下で子宮を拡大して描出して、胚移植を実施します。経腹エコーを使用している時は、エコーのプローブの押し方と内診用のクスコで子宮の傾きを調整して、子宮を収縮させないようにそっと胚盤胞を子宮に戻します。
STEP3:黄体補充を行う
新鮮胚盤胞移植では胚移植の3日前からプロゲステロン(黄体ホルモン)、2日前からエストロゲン(卵胞ホルモン)の補充を行います。採卵によって妊娠を維持するために重要な黄体になる部分の細胞を一部吸引してしまうために黄体補充を行う必要があります。
木場公園クリニックの胚盤胞移植の特徴
胚盤胞を獲得するためには、最適な培養環境(タイムラプスシステム)と胚を胚盤胞に到達させるための専用の培養液が必要です。
抗酸化剤入りの培養液
酸化ストレスに曝された精子は、運動率が低下したり、DNAが損傷されたりします。
木場公園クリニックでは、調整中の精子や精液調整後の精子を酸化ストレスから守るために、Vitrolife社から発売されている抗酸化剤入りの次世代培養液Gx-Series™を使用して精子処理を行っています。
培養液の性能が高い
sequential mediumは、8細胞期胚を境に胚が必要な栄養素が大きく異なるため、培養液の組成を前期培養用と後期培養用で変更しているのが特徴です。
前期用培養液は分泌期の卵管液の組成を基準に作成され、後期用培養液は子宮腔液の組成をもとに作成されています。
single mediumでは、ある程度の濃度の栄養素があらかじめ培養液に含まれていて、胚が必要な栄養素を選択して取り込むように設計されています。
胚盤胞の状態まで発育させるsequential mediumを開発したDavid K Gardner先生の培養液(Vitrolife社のG-Series™培養液)を木場公園クリニックでは開業以来21年間使用しています。
培養の途中で培養液を交換するsequential mediumでは培養業務が煩雑になるため、single mediumで培養している施設が増えてきています。
しかし、木場公園クリニックではsequential mediumとsingle mediumの成績を比較したところ、sequential mediumの成績が良かったため、たとえ業務負担が増えようとも胚にとって最適なsequential mediumで患者様の大切な胚を培養しています。
タイムラプスシステムで胚の状態を常時チェックする
従来は胚の観察は、その都度培養器(インキュベーター)から胚を取り出して顕微鏡下で行われていました。
顕微鏡下での観察は、顕微鏡の光、温度の低下、ガス濃度の変化などの環境変化に胚をさらすことになります。
当院が採用しているEmbryoScope+(タイムラプスシステム)では、培養器の中にカメラが内蔵されているため、胚を外に取り出さなくても10分毎に器械が胚を撮影してデータが蓄積されます。
タイムラプスシステムでは得られる胚の情報量が多くなるだけではなく、大事な胚への外的ダメージを大幅に軽減させ、胚を培養する環境が一定となるため、良好な胚盤胞が得られる確率が増加します。
当院のデータでは、胚盤胞到達率は従来のインキュベーターでは48.8%、EmbryoScope+では60.0%と、EmbryoScope+で胚盤胞到達率が高い結果でした。
また、当院では患者さまにPCのモニター上でタイムラプス動画をお見せしながら、胚の説明をしています。
胚移植専用の培養液を胚移植に使用する
EmbryoGlue®には培養液に高濃度のヒアルロン酸が添加されています。
医学的根拠を分析する第三者機関であるコクランによって、世界で唯一有効性が報告されている移植用培養液で、生産率を約10%程度高めると報告されています。
胚移植に柔らかいカテーテルを使用する
胚移植のこつは、頸管粘液をよく除去して、子宮を収縮させないように、柔らかいカテーテルを使用して、集中して胚をそっと子宮に戻すことです。
私は「一胚入魂」という思いで1個1個大切に今までに2万回以上の胚移植を行って来ました。
胚盤胞到達率を上げるために
培養液や培養環境が良くなかった約20年前は、胚盤胞に到達する割合が低くまたできた胚盤胞の質も悪い場合が多かったため、採卵後2-3日目の分割期胚(初期胚)で胚移植することがほとんどでした。しかし、自然では、初期胚は子宮ではなく卵管にまだあるため、生理的に同じ環境に胚を戻している訳ではありませんでした。近年では胚盤胞まで胚を培養可能な培養液の開発とタイムラプスシステムなどによる培養環境の改善に伴って、高率に胚盤胞が発生するようになりました。
高い胚盤胞到達率を獲得させるためには、クリニックの総合力が必要です。
手術室の片隅にある培養室ではなく、体外受精や顕微授精のために設計された培養室で培養を行う必要があります。
また、使用する器機や器材にこだわりをもって選定して、1年に一度の点検を必ず実施・記録を残すなど徹底した管理が必要になります。
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