【保険適用】顕微授精の費用と最新の治療について | 木場公園クリニック 不妊・不妊治療専門
不妊治療WEBセミナー 不妊治療セWEBミナー

【保険適用】顕微授精の費用と最新の治療について

顕微授精(ICSI)は、男性の精子が極端に少ない場合や、
精子をふりかける一般的な体外受精(IVF)では受精しないケースなどで行われる治療です。
1個の精子と1個の卵子を確実に出合わせるので、受精の確率が高くなります。
極端な場合、授精に使える精子が1個でもあれば、
これまでなら赤ちゃんをあきらめていたカップルでも、妊娠できる可能性があります。
2022年4月からの保険適用の拡大によって、顕微授精でも保険診療が可能となり、
これまでとくらべ、手の届きやすい治療となりました。
  1. 目次

  2. 顕微授精について

  3. 保険適用の顕微授精の費用

  4. 顕微授精の費用は体外受精にくらべて高額か?

  5. 顕微授精の体験談

  6. 木場公園クリニックの顕微授精の特徴

顕微授精について

顕微授精(ICSI)は1992年にベルギーで初めて妊娠に成功した方法で、細いガラス製の針を使用して、1個の精子を直接卵子の細胞内に注入する方法です。 現在では国内外の多くの不妊治療に用いられており、技術の改良も進んでいます。

顕微授精と体外受精の違い

一般の体外受精(IVF)では、採卵によって採取した卵子を培養液に入れ、そこに必要な処理を施した運動性良好な精子をふりかけ、自然に受精が起こるのを待ちます。
一方、顕微授精は、正確には卵細胞質内精子注入法(ICSI)という受精方法で、培養士が形態と運動性のよい精子を顕微鏡下で1個選びだし、卵子に注入します。
卵子が未成熟だと顕微授精には向きません。 そのため、採卵後にヒアルロニダーゼという酵素で、卵子のまわりにある卵丘細胞をとりのぞき、成熟度を判定します。体外受精の卵子にはこの作業は行いません。

顕微授精を選択するケース

  • 重度の男性不妊

    自然妊娠には精液1ml中に900~1500万個、体外受精には、少なくとも5~10万個の運動精子数が必要とされています。
    精液検査の結果、精子数がとても少ない重度の乏精子症や、運動率の低い精子無力症などの男性不妊は顕微授精の適応です。

    精液中に精子が見あたらない「無精子症」の男性でも、精巣内に精子が見つかれば、「精巣内精子回収法」により精子を採取して、顕微授精を行うことができます。
    この手術は保険適用です。

  • 受精障害

    体外受精を行っても、受精が起こらないときには受精障害を疑い、顕微授精を行います。
    受精障害の原因は精子と卵子のいずれか、あるいは双方に受精に至らない機能的な問題があると考えられます。

    卵子の殻の部分の透明帯が固くて精子が中に入れない場合や、精子に透明帯を突破する能力が不足している場合は、顕微授精でその問題を解決できます。

  • 男性に抗精子抗体がある

    抗精子抗体があると、抗体が精子を異物とみなして、攻撃してしまいますが、男性でも自分の精子に抗体がつくられることがあります。

    抗体反応が強度の場合は、精子の運動能力や受精能力が著しく損なわれるので、顕微授精が推奨されます。

保険適用の顕微授精の費用

顕微授精は保険が適用され、窓口での支払いは原則3割となります。それぞれの治療に3割負担分の金額が定められていて、全国どこでも、クリニックによる料金の差はありません。

顕微授精でも体外受精でも、卵巣刺激や採卵、受精卵の培養、凍結保存、胚移植などにかかる費用は変わりません。違いが出てくるのは、受精に関わる部分です。

なお、卵子を育てるための卵巣刺激の方法は、患者さんの卵巣機能によって異なるので、負担額には個人差があります。

受精に関わる費用

顕微授精では、卵子の個数によって費用が変わります。
 1個    14,400円
 2~5個  20,400円
 6~9個  30,000円
 10個以上 38,400円
顕微授精と体外受精を両方行うスプリットという方法では、顕微授精の個数に、体外受精代の1/2の6,300円が加算されます(現在、保険診療では、精液所見は悪くないが、人工授精で精液調整後の精子回収率が低い、クルーガーテストの結果が悪いなどの特別な医学上の理由がなければ、スプリット法は受けられません)。

このほか、顕微授精後の卵子を特殊な培養液に浸し、受精を手助けする「卵子活性化」の処置を行う場合には、3,000円、精巣内から回収された精子を使用する場合は15,000円がかかります。

顕微授精の平均的な費用

卵巣刺激を行い、5個の卵子が採卵でき、通常の顕微授精を行って、培養の結果3個の胚盤胞が得られたケースで見てみます。

胚盤胞は3個とも凍結し、次周期に融解胚移植で1個を戻したとします。
このときに患者さんが実際に支払う金額は以下のようになります。
  • 卵巣刺激の排卵誘発剤や検査、診察にかかる費用  約20,000~30,000円
    (卵巣刺激で使用する薬剤の量や種類で個人差があります)

  • 採卵       20,400円(基本料9,600円+加算料10,800円)麻酔代別途

  • 顕微授精     20,400円

  • 受精卵培養    18,000円

  • 胚盤胞培養加算    6,000円

  • 凍結胚保存    21,000円

  • 融解胚移植    36,000円

合計では、1回の顕微授精で約15万円という計算になります。
なお、残っている2個の凍結胚を保存しておくときは、1年ごとに保管料がかかります。

顕微授精の費用は体外受精にくらべて高額か?

保険適用前は、施設によっては体外受精にくらべてかなり高額な設定がされていたこともある顕微授精ですが、保険適用後は各治療段階でのコストが明確になったことで、顕微授精と体外受精で異なるのは「受精方法」にかかわる部分のみとなり、大きな差はなくなっていると言えます。

体外受精より高額になる理由

体外受精(IVF)では妊娠が成立しなかった、あるいは最初から体外受精では妊娠がむずかしいと考えられるケースでは、受精を成功させるために精子や卵子にさまざまな処理を行う必要があります。
また受精に適した1個の精子を選び出す作業には、培養士の高い技術力が必要です。

そのため体外受精では、卵子の個数にかかわらず、一律で12,600円ですが、顕微授精では培養士の手技料その他の経費として、卵子の数がふえるにつれ、費用が追加されます。

なお、通常の顕微授精でも結果が出ないときは、IMSI(イムジー)やPICSI(ピクシー)などの先進医療を併用することで受精率や妊娠率のアップを目ざすので、その場合はさらに費用がかかることになります。

PGT-Aに適した特性

PGT-Aを行うためには、まず体外受精で得られた受精卵があり、それが培養5~6日後に胚盤胞になることが必要です。すべての受精卵が胚盤胞になるわけではなく、胚盤胞まで育つ確率は30~40%とも言われています。女性の年齢が高くなるにつれて、胚盤胞を得られる確率は残念ながら低くなります。」

顕微授精と体外受精の受精率の違い

1度の採卵で複数の卵子が採取できた場合に、卵子を2つに分けて、それぞれ体外受精と顕微授精を同時に行うのがスプリット法です。
1回の採卵で同時に採取した卵子は、その質等に大きな差はないと考えられるので、当院で2019年4月から2022年3月までに行ったそれぞれの受精方法で、どれだけ受精が成立したかを見てみます。
正常受精率は、体外受精では56.6%、顕微授精では74.7%と、顕微授精の受精率が明らかに高率でした。
なお、同じデータで生産率(赤ちゃんを得られた率)を比較すると、顕微授精で得られた胚では34.8%に対して、体外受精で得られた胚では31.2%。 統計学的に有意差はありませんが、傾向としては顕微授精のほうが成績がよいと言えます。

顕微授精の体験談

当院で精巣内精子を用いて顕微授精を行ったご夫婦の体験をご紹介します。

顕微授精を決めたきっかけ

他院で夫が無精子症と診断され、女性と男性両方の不妊治療ができる木場公園クリニックを紹介されました。

顕微授精の経過と結果

初診時に吉田先生の診察を夫婦で受けました。

夫の睾丸の大きさはほぼ正常で、ホルモン検査の結果も正常であったため、約9割は閉塞性無精子症(精巣内で精子はつくられているが、通り道がふさがっていて精液中に精子が出てこられない状態)だろうとの説明を受けました。

顕微鏡を使用しない精巣内精子採取術(TESE)で、幸いにも精巣内に精子が見つかり、凍結ができ、私のほうは排卵誘発剤を多めに使用する高刺激法で、10個の卵子が採取できました。

凍結していた精巣精子を使用した顕微授精により、4個の胚盤胞が得られ、凍結。融解胚盤胞移植で妊娠することができました。

顕微授精ができる時代でほんとうによかったと夫婦で話しています。

木場公園クリニックの顕微授精の特徴

保険診療開始後の当院の直近のデータでは、ART(生殖補助医療)症例のうち、顕微授精が48.6%、体外受精が41.1%、残りがスプリット法となっています。

顕微授精の割合が高いのは、他院では結果の出なかったカップルが、男性不妊の診療実績のある当院を受診されるケースも多く含まれるためだと考えています。

数ある精子の中から、妥協せず最も良好な精子を選ぶ

IMSI(形態良好精子選別後顕微授精)

通常のICSIでは一般的に精子を400~600倍の倍率で観察し、精子を選別します。
IMSIでは、最大6000倍の倍率で精子を観察可能な強拡大顕微鏡を用いるので、通常の顕微鏡では観察できない精子頭部の微細な空砲(ぬけている部分)の有無を判別でき、より良質な精子を選別することができます。

頭部に空砲がない形態良好精子は、DNAの断片化が低率であることを報告する論文が多数あり、受精率や胚盤胞到達率が高くなり、その結果妊娠率の向上や流産率の低下が期待されます。

顕微受精で妊娠成立しない場合や、事前検査で精子のDNA断片化率が高率な場合に適応となります。自費ですが、保険診療と併用できる先進医療です。

ピエゾ素子を用いた卵子にやさしい顕微授精

PIEZO-ICSI

ICSIでは、精子の頭部1個分の細さの非常に細いガラス管を用いて卵子に精子を注入しますが、精子を吸い込んだガラス管を卵子に差し込むためには、卵子の細胞膜に穴をあける必要があります。
従来のICSIでは、ガラスの針で卵子の細胞膜を細胞質ごと吸引し、膜を引き伸ばしてちぎるように破ります。

それに対して、PIEZO-ICSIは、ピエゾ素子の性質を用いてガラス管を微細に高速振動させることで、細胞膜や細胞質を吸引せずに、卵子の膜に非常に小さな穴をあける方法です。
細胞膜や細胞質の吸引を伴わないため、卵子に優しいと考えられます。

実際に当院でも細胞膜の破膜時に卵子が壊れてしまう確率が通常のICSIに比べ低率で、高い受精率が得られているため、現在、多くの症例に対しPIEZO-ICSIを実施しています。

より受精しやすい成熟した精子を選別する

PICSI(生理学的精子選択術)

通常のICSIでは、培養士が顕微鏡下で精子の形態や運動性を調べて選別を行いますが、これでは精子の成熟度まではわかりません。

成熟した精子は、卵子の卵丘細胞に存在するヒアルロン酸と結合するレセプター(受容体)を持っていて、卵子細胞の中に侵入することができます。

そこでヒアルロン酸が含まれる培養液を使って、このレセプターをもつ成熟した精子を選別して行う顕微授精がPICSIです。成熟した精子はDNAの損傷も少ないとされ、受精率や妊娠率の向上が期待されます。こちらも自費負担ですが、保険診療と併用できる先進医療です。

顕微授精の成績は培養士個人のスキルが大きく影響

顕微授精を担当するスタッフには、高い技術と正確な判断力、迅速かつていねいに操作をするための集中力が求められます。加えて、患者さんに安心して受精卵を預けていただけるよう、高い倫理観もたいせつです。

当院では、毎月培養士別に培養成績を算出、同一症例を2人で行い、培養成績の比較を行うなど、スタッフの精度管理を徹底し、また、国内外の各種学会に参加して、最新の知識を身につけるように、日々精進しています。

木場公園クリニックにおけるPGT-A

木場公園クリニックは、2020年より、学会の臨床研究の分担施設および解析施設として承認を受け、PGT-Aに関する知識や技術を習得し、確立してきました。以前はPGT-Aの解析を自施設で行なっていましたが、現在は外部の検査センターに委託しており、染色体の異数性(トリソミーやモノソミー)の有無だけでなく、染色体数が69本ある3倍体や92本の4倍体など、これまでの検査方法ではわからなかった異常も検出できます。

当院では、PGT-Aを受けた結果、これまでで100人以上の赤ちゃんが無事誕生しています。その一例をご紹介しましょう。
40歳で、卵巣機能は比較的良好な患者さんでした。2回胚移植を行いましたが、2回とも妊娠判定が陰性だったため、PGT-Aのメリットとデメリットについてご夫婦にくわしく説明をしたところ、ご夫婦間で十分に相談の上、PGT-Aを受けることを希望されました。
そこで、高刺激法による卵巣刺激を行なって、良好な胚盤胞が5個でき、PGT-Aを実施。5個中3個は染色体異常、2個が正常でした。ホルモン補充周期による融解胚盤胞移植を行なって、妊娠が成立、元気な赤ちゃんが生まれました。その後、2人目希望で来院され、凍結保存していたもうひとつの胚盤胞で、再度ホルモン補充周期による融解胚移植を実施して妊娠、現在妊娠中期です。

院長である私は、生殖医療専門医としての経験に加えて、臨床遺伝専門医の資格ももっており、検査結果がモザイクと出たときには、何番の染色体が何%程度の異常なのかによって移植可能胚かどうかを判断し、患者さんにくわしく説明をしています。妊娠成立したときも、患者さんの希望があれば、妊娠初期に胎児精密超音波検査を行い、そこで異常が疑われれば羊水検査を行うこともあります。胚移植の可能性から赤ちゃんへの影響など、患者さんの悩みや不安に寄り添って、十分な遺伝カウンセリングができるのが大きな強みです。

患者さんのためには、将来的にPGT-Aが保険適用になればよいのですが、倫理的な側面など検討課題がまだ多くあり、なかなか簡単には進まないと考えています。それでも、対象となる患者さんにとっては確実に有効な検査です。高額になりますので、十分な説明をしたうえで、検査を受けるかどうかは患者さんご自身に判断していただきます。
友だち追加

関連するコラム

木場公園クリニックの特徴

木場公園クリニックは体外受精・顕微授精に特化したクリニックです。
少しでも安心して不妊治療を受けていただけるよう、
様々なトータルソリューションをご提案・ご提供いたします。

海外・国内の学会参加による
世界レベルの最先端の治療を追及

開院以来20年にわたり診療で蓄積された診療経験や検査・治療の結果、症例をもとに、
より良い不妊治療の成果を出すために、日々行っている研究や検討を紹介しています。

詳しくみる

着床前胚染色体異数性検査
(PGT-A)

東京の木場公園クリニックは、日本産科婦人科学会から、「反復体外受精・胚移植(ART)不成功例、習慣流産例(反復流産を含む)、染色体構造異常例を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の有用性に関する多施設共同研究」の研究分担施設として承認を受けています。

詳しくみる

胎児精密超音波検査について

胎児精密超音波検査では胎児の形態異常や構造異常の評価、胎盤臍帯の評価を超音波を使って詳細に行います。
これまで胎児の一般的な超音波スクリーニング検査は妊娠20週前後で評価するのがbestと考えられてきましたが、超音波診断装置の技術の向上と診断技術の改良により妊娠の早い段階で胎児の構造を観察することが可能となりました。

詳しくみる

卵巣刺激
(高刺激・中刺激・低刺激・自然周期)

女性の実年齢と卵巣年齢がイコールではないため、それぞれの方の卵巣の状況に応じて刺激法を選んでいます。
当院では高刺激の患者様と低刺激の患者様の割合は半々です。
高刺激と低刺激のどちらがいいのかではなく、体外受精や顕微授精を行う施設として重要なことはいろいろな卵巣刺激法を選択肢として持っていることです。

詳しくみる