【保険適用】顕微授精の費用と最新の治療について
更新日時:2025.11.27
たとえ使える精子がたった1個でも、顕微授精なら妊娠の可能性が広がります。
2022年4月からは保険適用の範囲が拡大され、顕微授精も保険診療で受けられるようになりました。これにより、より多くの方にとって選択しやすい治療となっています。
顕微授精について
顕微授精(ICSI)は1992年にベルギーで初めて妊娠に成功した不妊治療法です。細いガラス製の針を使用して、1個の精子を直接卵子の細胞内に注入する方法です。 現在では国内外の多くの不妊治療に用いられており、技術の改良も進んでいます。
顕微授精と体外受精の違い
一般的な体外受精(IVF)では、採卵によって採取した卵子を培養液に入れ、そこに必要な処理を施した運動性良好な精子をふりかけて自然に受精が起こるのを待ちます。一方、顕微授精は、「卵細胞質内精子注入法(ICSI)」という受精方法で、培養士が形態と運動性の良い精子を顕微鏡下で1個選び出し、卵子に注入します。
ただし、顕微授精には成熟した卵子が必要です。そのため、採卵後にヒアルロニダーゼという酵素を使って卵子のまわりにある「卵丘細胞」を取り除き、卵子の成熟度を判定します。体外受精場合、この工程は不要です。
顕微授精を選択するケース
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重度の男性不妊
自然妊娠には精液1ml中に900~15,00万個、体外受精には少なくとも5~10万個の運動精子数が必要とされています。
精液検査の結果、精子数がとても少ない重度の「乏精子症」や、運動率の低い「精子無力症」などの男性不妊は顕微授精の適応です。
精液中に精子が見あたらない「無精子症」の男性でも、精巣内に精子が見つかれば、「精巣内精子回収法」により精子を採取して、顕微授精を行うことができます。
この手術は保険適用です。 -
受精障害
体外受精を行っても受精が起こらない場合、「受精障害」が疑われます。その際には顕微授精を行います。
受精障害の原因は、精子と卵子のいずれか、あるいは双方に受精に至らない機能的な問題があると考えられます。
例えば、卵子の透明帯(殻)が固くて精子が中に侵入できない場合や、精子に透明帯を突破する能力が不足している場合は、顕微授精でその問題を解決できます。
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男性に抗精子抗体がある
抗精子抗体があると、精子を“異物”と判断して攻撃してしまいます。男性自身の体内で精子に対する抗体がつくられるケースもあります。
抗体反応が強いと、精子の運動能力や受精能力が著しく損なわれるため、そのような場合には顕微授精が推奨されます。
保険適用の顕微授精の費用
顕微授精は保険が適用され、窓口での支払いは原則3割です。各治療ごとに3割負担の金額が全国で定められており、全国どこでもクリニックごとの料金差はありません。
顕微授精でも体外受精でも、卵巣刺激、採卵、受精卵の培養、凍結保存、胚移植などにかかる費用は変わりません。異なるのは、受精の方法に関わる部分です。
なお、卵子を育てるための卵巣刺激の方法は、患者さんの卵巣機能によって異なるので、負担額には個人差があります。
受精に関わる費用
顕微授精では、卵子の個数によって費用が異なります。- 1個:14,400円
- 2~5個:20,400円
- 6~9個:30,000円
- 10個以上:38,400円
※ただし現在、保険診療では「精液所見は悪くないが、人工授精における精液調整後の精子回収率が低い」「クルーガーテストの結果が悪い」など、医学的に特別な理由がある場合に限り、スプリット法は認められています。
そのほか、追加費用としては以下のようなケースがあります:
- 卵子活性化処置(顕微授精後に特殊な培養液を使用する方法):3,000円
- 精巣内から回収した精子を用いる場合(TESE精子使用など):15,000円
顕微授精の平均的な費用
ここでは、卵巣刺激を行って5個の卵子が採卵でき、通常通り顕微授精を実施。その後の培養で3個の胚盤胞が得られたケースを例に、実際の負担額を見ていきます。得られた3個の胚盤胞は全て凍結し、次周期の融解胚移植で1個を戻した場合、患者さんが実際に支払う金額の目安は以下のとおりです。
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卵巣刺激の排卵誘発剤・検査・診察費:約20,000~30,000円
(卵巣刺激で使用する薬剤の量や種類で個人差があります) -
採卵:20,400円
(基本料9,600円+加算料10,800円/※麻酔代は別途) -
顕微授精:20,400円
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受精卵培養:18,000円
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胚盤胞培養加算:6,000円
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凍結胚保存:21,000円
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融解胚移植:36,000円
なお、残っている2個の凍結胚を保存する場合は、別途1年ごとに保管料が必要になります。
顕微授精の費用は体外受精にくらべて高額か?
保険適用前は、施設によっては体外受精に比べてかなり高額な設定がされていたこともある顕微授精ですが、保険適用が始まったことで各治療段階でのコストが明確になり、現在では両者で異なるのは「受精方法」にかかわる部分のみです。そのため、全体として大きな費用差はほとんどなくなっていると言えます。
体外受精より高額になる理由
体外受精(IVF)で妊娠が成立しなかった方や、最初から体外受精では妊娠がむずかしいと考えられるケースでは、受精を成功させるために精子や卵子にさまざまな処理を行う必要があります。また受精に適した1個の精子を選び出す作業には、培養士の高い技術力が必要です。
そのため、体外受精では、卵子の個数に関係なく一律12,600円であるのに対し、顕微授精では培養士の手技料その他の経費として、卵子の数が増えるにつれて費用が追加されます。
なお、通常の顕微授精でも結果が出なかった場合は、「IMSI(イムジー)」や「PICSI(ピクシー)」などの先進医療を併用することで、受精率や妊娠率のアップを目指すことがあります。これらの追加技術には、さらに費用がかかることになります。
PGT-Aに適した特性
PGT-A(自由診療)を行うためには、まず体外受精によって受精卵を得る必要があります。そして、その受精卵が培養5〜6日目に胚盤胞まで成長していることが前提条件です。
すべての受精卵が胚盤胞になるわけではなく、胚盤胞まで育つ確率は30~40%とも言われています。特に女性の年齢が高くなるにつれて、胚盤胞を得られる確率は残念ながら低くなります。
顕微授精と体外受精の受精率の違い
1回の採卵で複数の卵子が採取できた場合、卵子を2つに分けて、それぞれ体外受精と顕微授精を同時に行うのがスプリット法です。1回の採卵で同時に採取した卵子は、その質等に大きな差はないと考えられるため、当院で2019年4月から2022年3月までに行ったそれぞれの受精方法で、どれだけ受精が成立したかを見てみます。 正常受精率は、
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体外受精では56.6%
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顕微授精では74.7%
この結果から、顕微授精のほうが明らかに受精率が高いことがわかります。
なお、同じデータで生産率(赤ちゃんを得られた率)を比較すると、以下のような傾向が見られました。
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顕微授精:34.8%
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体外受精:31.2%
統計学的に有意差はありませんが、傾向としては顕微授精のほうが成績がよいと言えます。
顕微授精の体験談
当院で精巣内精子を用いて顕微授精を行ったご夫婦の体験をご紹介します。
顕微授精を決めたきっかけ
他院で夫が無精子症と診断され、女性と男性両方の不妊治療ができる木場公園クリニックを紹介されました。顕微授精の経過と結果
初診時に吉田先生の診察を夫婦で受けました。夫の睾丸の大きさはほぼ正常で、ホルモン検査の結果も正常であったため、約9割は閉塞性無精子症(精巣内で精子はつくられているが、通り道がふさがっていて精液中に精子が出てこられない状態)だろうとの説明を受けました。
顕微鏡を使用しない精巣内精子採取術(TESE)で、幸いにも精巣内に精子が見つかり、凍結ができ、私のほうは排卵誘発剤を多めに使用する高刺激法で、10個の卵子が採取できました。
凍結していた精巣精子を使用した顕微授精により、4個の胚盤胞が得られ、凍結。融解胚盤胞移植で妊娠することができました。
顕微授精ができる時代でほんとうによかったと夫婦で話しています。
木場公園クリニックの顕微授精の特徴
保険診療開始後の当院の直近のデータでは、ART(生殖補助医療)症例のうち、顕微授精が48.6%、体外受精が41.1%、残りがスプリット法となっています。
顕微授精の割合が高い背景には、他院では結果の出なかったカップルが、男性不妊の診療実績が豊富な当院を受診されるケースも多く含まれるためだと考えています。
数ある精子の中から、妥協せず最も良好な精子を選ぶ
【IMSI(形態良好精子選別後顕微授精)】通常の顕微授精(ICSI)では一般的に精子を400~600倍の倍率で観察し、精子を選別します。
一方、IMSIでは、最大6,000倍の強拡大顕微鏡を用いることで、通常の顕微鏡では観察できない精子頭部の微細な空砲(ぬけている部分)の有無まで確認できます。
これにより良質な精子を選別することができます。
頭部に空砲がない形態良好精子は、DNAの断片化が低率であると報告する論文が多数あり、受精率や胚盤胞到達率が高くなり、結果として妊娠率の向上や流産率の低下が期待されます。
顕微受精で妊娠成立しない場合や、事前検査で精子のDNA断片化率が高率な場合に適応となります。自費診療となりますが、保険診療と併用が可能な先進医療です。
ピエゾ素子を用いた卵子にやさしい顕微授精
【PIEZO-ICSI】顕微授精(ICSI)では、精子の頭部1個分の細さの非常に細いガラス管を用いて卵子に精子を注入しますが、精子を吸い込んだガラス管を卵子に差し込むためには、卵子の細胞膜に穴をあける必要があります。
従来の顕微授精では、ガラスの針で卵子の細胞膜を細胞質ごと吸引し、膜を引き伸ばして破膜するため、卵子に一定の負担がかかっていました。
それに対して、PIEZO-ICSIは、「ピエゾ素子」と呼ばれる特殊な振動装置を用いてガラス管を微細に高速振動させることで、細胞膜や細胞質を吸引せずに卵子の膜に非常に小さな穴をあける方法です。
細胞膜や細胞質の吸引を伴わないため、卵子に優しいと考えられます。
実際に当院でも、細胞膜の破膜時に卵子が壊れてしまう確率が通常のICSIに比べ低率で、高い受精率が得られています。そのため、現在では多くの症例に対しPIEZO-ICSIを実施しています。
より受精しやすい成熟した精子を選別する
【PICSI(生理学的精子選択術)】通常の顕微授精(ICSI)では、培養士が顕微鏡下で精子の形態や運動性を調べて選別を行いますが、これでは精子の成熟度まではわかりません。
実は、成熟した精子には、卵子の周囲にある卵丘細胞内のヒアルロン酸と結合するレセプター(受容体)が備わっており、この受容体があることで卵子細胞の中に侵入することができます。
PICSIでは、この性質を利用します。ヒアルロン酸が含まれる培養液を使って、このレセプターをもつ成熟した精子を選別して行う顕微授精がPICSIです。成熟した精子はDNAの損傷も少ないとされ、受精率や妊娠率の向上が期待されます。
こちらも自費診療となりますが、保険診療と併用できる先進医療です。
顕微授精の成績は培養士個人のスキルが大きく影響
顕微授精を担当するスタッフには、高い技術と正確な判断力、迅速かつていねいに操作をするための集中力が求められます。加えて、患者さんに安心して受精卵を預けていただけるよう、高い倫理観も大切です。当院では、毎月、培養士ごとに培養成績を算出し、同一症例を2名体制で行い培養成績の比較を行うなど、スタッフ個々の精度管理を徹底しています。
また、国内外の各種学会に積極的に参加し、最新の知識を身につけるように日々精進しています。
木場公園クリニックにおけるPGT-A
木場公園クリニックでは、2020年より学会の臨床研究の分担施設および解析施設として承認を受け、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)に関する知識や技術を習得し、確立してきました。
以前はPGT-Aの解析を自施設で行なっていましたが、現在は外部の検査センターに委託しており、染色体の異数性(トリソミーやモノソミー)の有無だけでなく、染色体数が69本ある「3倍体」や、92本の「4倍体」など、これまでの検査方法ではわからなかった異常も検出できます。
当院では、PGT-Aを受けた結果、これまでで150人以上の赤ちゃんが無事誕生しています。その一例をご紹介しましょう。
そこで、高刺激法による卵巣刺激を行ない、良好な胚盤胞が5個でき、PGT-Aを実施。5個中3個は染色体異常、2個が正常でした。ホルモン補充周期による融解胚盤胞移植を行ない、妊娠が成立、元気な赤ちゃんが生まれました。
その後、2人目希望で来院され、凍結保存していたもうひとつの胚盤胞で再度ホルモン補充周期による融解胚移植を実施して妊娠。現在妊娠中期です。
院長である私は、生殖医療専門医としての経験に加えて、臨床遺伝専門医の資格も持っており、検査結果が「モザイク」と出たときには、何番の染色体が何%程度の異常なのかによって移植可能胚かどうかを判断し、患者さんにくわしく説明をしています。
妊娠成立したときも、患者さんの希望があれば妊娠初期に胎児精密超音波検査を行い、そこで異常が疑われれば羊水検査を行うこともあります。胚移植の可能性から赤ちゃんへの影響など、患者さんの悩みや不安に寄り添って、十分な遺伝カウンセリングができるのが大きな強みです。
それでも、対象となる患者さんにとっては確実に有効な検査です。高額になりますので、十分な説明をしたうえで、検査を受けるかどうかは患者さんご自身に判断していただきます。
受付・診療時間
| 時間/曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
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午前
午前8:30-12:00
午後
午後13:30-16:30 |
吉田 関本 巷岡 西川 杉山 | 吉田 関本 巷岡 西川 | 巷岡 西川 | 吉田 関本 巷岡 西川 米澤 | 関本 西川 | 吉田 関本 杉山 岩原 松浦 |
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木場公園クリニックは体外受精・顕微授精に特化したクリニックです。
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