PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)とは?
更新日時:2025.11.19
近年、遺伝子解析の技術が進んだことで、移植前に胚の染色体を調べ、正常な胚を選んで移植する方法が可能となりました。
これがPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)です。
ただし、 希望すれば誰もが受けられる検査ではなく、日本産科婦人科学会の認定を受けている施設のみで実施されています。
PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)とは?
年齢が高くなるにつれ、染色体に異常のある卵子や精子の割合は増えていきます。
どちらか一方、あるいは両方に異常があると、受精できなかったり、受精はしても、着床や妊娠継続ができない可能性が高くなります。
染色体異常とは?
染色体は細胞の核の中にある物質で、1本の染色体には、親から子へと受け継がれる数百〜数千の遺伝子を含んでいます。ヒトの正常な細胞には、1番〜22番の常染色体がそれぞれ2本ずつ、そして性染色体が2本、合計で46本(23対)の染色体が存在します。一方、精子や卵子などの生殖細胞は、これらの染色体を半分にする「減数分裂」というプロセスを経て、23本の染色体を持つ状態でつくられます。そして受精によって、23本同士が合わさり、再び46本の染色体がそろった受精卵(胚)となるのが通常の流れです。
しかし、この減数分裂の過程で、染色体がうまく半分に分離できなかったり、一部分が欠けたり、入れ替わったりすることがあります。このような染色体の構造や数の異常によって生じるのが「染色体異常」です。
特に、染色体の数に過不足がある状態を「異数性胚」と呼び、特定の染色体が1本多く計3本ある場合は「トリソミー」、逆に1本少ない場合は「モノソミー」と呼びます。
女性の場合、加齢によってこのような異常のリスクが高まることが知られています。例えば、30代前半の女性では胚の異数性率は30%程度ですが、30代後半からその率は上昇し、40歳では約60%、44歳では約90%の胚が異数性を示すことが報告されています。
PGT-Aの目的
胚の質(グレード)は通常見た目で判断されますが、染色体に異常があるかどうかまではわかりません。そのため、そもそも移植に向かない胚を戻してしまい、着床不全や習慣流産などの悲しい結果になることがあります。PGT-Aは、子宮に戻す前の段階で胚の染色体を調べて、数に過不足がない「正常な胚」を見つけ出すことで、無駄な移植を減らし、流産のリスクを下げ、妊娠率や、出産率の向上を目指す検査です。
「着床前検査」と言っても、ただ染色体を調べるだけでなく、その後の胚移植までを含めた一連の医療技術として実施されます。
PGT-Aの検査の流れや方法
PGT-Aは受精して胚盤胞の状態まで育った胚を調べるので、通常のART(生殖補助医療)のときと同様に、「採卵→採精→受精→胚培養」を行う必要があります。
PGT-Aの検査の流れ
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体外受精または顕微授精を行い、受精卵を胚盤胞まで培養する
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胚盤胞から将来胎盤になる部分の細胞を5~7個程度採取する(胚生検)
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採取した検体は解析施設に送り、生検後の胚盤胞はいったんすぐに凍結保存する
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解析の結果、検査した胚の判定について説明を受ける
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移植可能な胚があれば、融解して移植する
検査の方法
胚盤胞には、将来赤ちゃんになる内側の細胞(内部細胞塊)と、胎盤になる外側の細胞(栄養外胚葉)があります。PGT-Aでは、胚への影響を最小限に抑えるため、検査に使用する細胞は胎盤となる外側の部分(栄養外胚葉)から採取されます。胚の判定
解析の結果により、胚はA~Dの4段階で判定されます。A判定(正倍数性胚):染色体の数に異常がなく、移植に適している胚です。
B判定(モザイク胚):正常な数の染色体をもつ細胞と、異数性の細胞が混在している胚です。着床率や出産率ははA判定の胚に比べると下がるものの、出産に至った報告もあり、移植に用いるかどうかについては慎重に検討する必要があります。
C判定(異数性胚/構造異常胚):染色体に数や構造の異常があり、移植には適していません。
D判定(判定不能):なんらかの理由で検体の判定ができなかったものです。
なお、PGT-Aでは性別も判明しますが、その結果は原則としてご夫婦には開示されません。
PGT-Aの対象者
PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は、もともと「流産率や妊娠率の低下を改善できるかどうか」を検証する臨床研究として国内で導入されました。
この研究の結果、すでにART(生殖補助医療)を受けていて、流産を繰り返しているカップルにおいて、PGT-Aを実施することで、胚移植1回あたりの流産率が減少することが明らかになりました。
現在、日本産科婦人科学会が定めるPGT-Aの適応は以下のようなケースに限られています。
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体外受精・胚移植を行っているが、2回以上妊娠に至らなかった不妊症のカップル
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女性が高年齢(35歳以上)の不妊症のカップル
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過去の妊娠で2回以上の流産・死産を経験されている不育症のカップル
形態が良好で、きれいに見える胚盤胞であっても、38歳では約50%に、40歳では約70%に染色体異常があるとされており、見た目だけでは判断できないことが多くあります。
また、日本産科婦人科学会の2025年9月8日の改訂によって、女性が高年齢(35歳以上)の不妊症のカップルにもPGT-Aが認められました。
一方で、もともと体外受精の適応ではないカップルがPGT-Aを目的に体外受精を受けることも、身体的・精神的・経済的な負担が大きいため推奨されていません。
PGT-Aに適した特性
PGT-Aを行うためには、まず体外受精で得られた受精卵があり、その受精卵が培養5~6日後に胚盤胞まで成長していることが必要です。ただし、すべての受精卵が胚盤胞になるわけではありません。胚盤胞まで育つ確率はおおよそ30~40%程度とされており、女性の年齢が高くなるにつれて、胚盤胞を得られる確率は残念ながら低くなります。
PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)
胚染色体の数ではなく、形の異常を調べるのがPGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)です。検査の方法や判定はPGT-Aと同じですが、対象者は、ご夫婦のどちらかに(あるいはどちらにも)染色体の構造異常が認められている場合に限られています。この検査は、必ずしも反復妊娠不成功や流死産歴がなくても受けることができますが、実施にあたっては臨床遺伝専門医による診察と十分な説明を受けることが必須です。
PGT-Aのメリットとデメリット
PGT-Aを受けることによって期待される成果と、注意すべき点についてまとめます。
PGT-Aのメリット
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胚移植1回あたりの妊娠率の向上が期待でき、移植回数を減らすことができる
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妊娠あたりの流産率の低下の可能性があり、流産による身体的、精神的ダメージを避けられる
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高年齢の場合、妊娠出産への時間の短縮につながる可能性がある
PGT-Aのデメリット
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検査をした結果、移植可能な胚がなければ、再度検査が必要になることも
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胚生検を行うことで、胚が損傷して、妊娠できなかったり、赤ちゃんへ何らかの影響を及ぼすリスクがある
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胚の判定は100%正確ではなく、異常のある胚を正常と判定したり、正常な胚が異常ありの判定になることがある。前者の場合は移植して妊娠しても結果的に流産が起こったり、後者では健康な赤ちゃんが生まれるかもしれない胚を排除してしまう可能性がある
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モザイク胚の扱い(移植の可否)について、まだ不確定な点が多い
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高額な費用がかかる
PGT-Aの費用
PGT-Aは、現状では保険適用外の検査です。そのため、保険診療で行う周期にPGT-Aを受けることはできず、PGT-Aを実施する周期には、検査胚を得るために行う治療やその後の胚移植費用がすべて自費負担となります。
また胚の解析にかかわる費用も別途必要です。
木場公園クリニックにおけるPGT-Aの費用(体外受精の場合)
| 処 置 | 金 額(税込) |
|---|---|
| 卵巣刺激に使用する薬剤や検査料 | ¥55,000~110,000 |
| 採卵 | ¥132,000 |
| 精子処理 | ¥55,000 |
| 媒精 | ¥55,000 |
| 培養 | ¥77,000 |
| タイムラプス | ¥33,000 |
| 透明体開口法 | ¥33,000 |
| 胚盤胞培養 | ¥55,000 |
| タイムラプス | ¥33,000 |
| PGT-A検査費 | ¥99,000(胚1個あたり) |
| 胚凍結 | ¥121,000(2個以上の時1個につき凍結代追加分¥11,000)
PGT-Aを行って、 胚移植可能胚がある時は、 胚融解・胚移植の費用がかかります。 |
| 胚融解・胚移植 | ¥165,000 |
| 合計すると、検査胚が1個の場合は約72万円、検査胚が5個の場合は 約115万円となります、*顕微授精の場合は、さらにICSI料金が11万円加算されます。 | |
木場公園クリニックにおけるPGT-A
木場公園クリニックでは、2020年より学会の臨床研究の分担施設および解析施設として承認を受け、PGT-Aに関する知識や技術を習得し、確立してきました。以前はPGT-Aの解析を自施設で行なっていましたが、現在は外部の検査センターに委託しており、染色体の異数性(トリソミーやモノソミー)の有無だけでなく、染色体数が69本ある3倍体や92本の4倍体など、これまでの検査方法ではわからなかった異常も検出できます。
40歳で卵巣機能は比較的良好な患者さんで、2回胚移植を行いましたが2回とも妊娠にはいたりませんでした。そこでご夫婦にPGT-Aのメリット・デメリットについてくわしくご説明をしたところ、ご夫婦間で十分に相談の上、PGT-Aの実施を希望されました。
高刺激法による卵巣刺激を行ない、良好な胚盤胞が5個得られたため、PGT-Aを実施。その結果、5個中3個は染色体異常、2個が正常胚と判定されました。正常胚のひとつをホルモン補充周期で融解胚盤胞移植した結果、妊娠が成立し、元気な赤ちゃんが生まれました。その後、2人目希望で来院され、凍結保存していたもうひとつの胚盤胞で、再度ホルモン補充周期による融解胚移植を実施して妊娠、現在妊娠中期となっています。
院長である私は、生殖医療専門医としての経験に加えて、臨床遺伝専門医の資格も持っており、検査結果がモザイクと出たときには、何番の染色体が何%程度の異常なのかによって移植可能胚かどうかを判断し、患者さんにくわしく説明をしています。妊娠成立したときも、患者さんの希望があれば、妊娠初期に胎児精密超音波検査を行い、そこで異常が疑われれば羊水検査を行うこともあります。
胚移植の可能性から赤ちゃんへの影響など、患者さんの悩みや不安に寄り添って、十分な遺伝カウンセリングを行えることが大きな強みです。
患者さんのためには、将来的にPGT-Aが保険適用になれば良いのですが、倫理的な側面など検討課題がまだ多くあり、なかなか簡単には進まないと考えています。
それでも、対象となる患者さんにとっては確実に有効な検査です。
高額になりますので、十分な説明をしたうえで、検査を受けるかどうかは患者さんご自身に判断していただきます。
受付・診療時間
| 時間/曜日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
|
午前
午前8:30-12:00
午後
午後13:30-16:30 |
吉田 関本 巷岡 西川 杉山 | 吉田 関本 巷岡 西川 | 巷岡 西川 | 吉田 関本 巷岡 西川 米澤 | 関本 西川 | 吉田 関本 杉山 岩原 松浦 |
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